ChatGPTを始めとする生成AIのめざましい技術革新を目の当たりにして、人々はいま生きる社会の大きな変革への期待と戸惑いが交錯している様に思われます。
高速インターネット、ソーシャルメディアの普及・成長、アプリの多様化などで、ネットワーク上の生活世界が一挙にグローバル化した時代が思い起こされます。
ちょうど13年前の、2012年第12回Kフォーラムの開催趣旨(故福村晃夫教授による)に、「いま大学の3年生達は例外なくスマホなどのケイタイを手にして会社説明会に詰め掛けています。彼らはネットワークを介してほぼ完全な接続の状態にありますが、身元引受の保証があるわけでなく、断絶が見え隠れしています。この格差はなんと大きいことか。」と、グローバル化したネットワーク生活空間の中の当時の学生に目を向け、「いま彼らの身体は次なる文化を求めることを喫緊の課題としていることでしょう。それは一体なにがもたらすのか。激動するこの時代を招来したのは情報技術であったのと同じようにして、未来社会を新たなテクノロジーの上にのせるしかないのでしょうか。人・身体・脳・知能・言葉の融合研究を基底にした、これから育つ、革新的テクノロジーが期待されます。彼らはそれらを用いて新しい表現法と新しい言語を創発し、コミュニケーションの新形式を見つけて時代に応じたコミュニティーの創造にいそしむことでしょう。若手研究者の活躍を待つことや大であります。」とあります。
いま目の前にある生成AIの生活世界を創出したのは、まさにこの10年余の、若手研究者の活躍でしょう。AI技術の可能性は社会と生活の中に一気に流れ込んでいます。特に生成AIのマルチモーダル化はテキストだけでなく画像や音声をも統合し、より複雑な対話を可能にしました。これにより教育、エンターテイメント、顧客サービスなど幅広い分野での応用が進んでいます。また、ビジネスプロセス自動化や意思決定のサポートなど企業活動においてその役割を高めています。さらには、ロボットへのAIの統合は、自動運転車、無人配送ロボット、自立型ドローンなどの開発実用化も社会を大きく変えるでしょう。
しかし、ここでも、上に引用したKフォーラムの趣旨の中の次のフレーズ「この新たな生活世界はコンピュータ支援であるがゆえに、模写、模倣、模擬、模造、偽造を内蔵するシミュレーションを
その文化の基底とすることの必然として、社会相は激しい変化、多様化を伴いながら流動して已みません。」は、いまのChatGPTをはじめとするAIの生活世界に対しても鋭い視線であると思います。 12支の螺旋階段を一回り登りましたが、再び次の高みに向けて、人・身体・脳・知能・言葉の融合研究を基底にした、これから育つ、革新的テクノロジーが期待されます。
再び、若手研究者の活躍に期待するところ大であります。
(世話人代表 名古屋大学・愛知県立大学・豊橋技術科学大学 名誉教授 稲垣 康善)