ロボットサッカーの第一回世界大会がこの夏に日本で、しかも名古屋で開催されるということで、この大会に向けて第1回Kフォーラム「ロボカップウインターフォーラム:技術的課題とその将来展望」を平成9年1月12日〜13日にダイヤモンド片山津温泉ソサエティで開催しました。2日間にわたって研究発表と熱心な討議が続き、得た成果は「ロボカップ物理エージェントの学術上の意義と課題」としてまとめられました。
この内容は、以後財団がロボカップを継続的にバックアップしていく意義にも関連しますので、以下に記します。
ロボカッププロジェクトの学術上の普遍的意義は、物理的実態である複数のシステムが、動的に変化する物理的環境との相互作用のもとで複雑なふるまいを行うことを通して与えられたタスクを完遂するようにするための学術上の問題点とし、その解決法を明らかにすることである。
ここで、知的なふるまいを行うシステムが、通常のAIとは異なり、ロボットとしての物理的身体を持つということは、従来の知的システムの構成には無い次の諸問題を提起する。
(1) センシング(入力)とアクチュエーション(出力)の機能は強く結合していて、分離できない。
(2) 与えられたタスクを完遂するには、センシングとアクチュエーションに関与する空間を、タスクの作業に直接関わるように抽象化しなくてはならない。しかもこの抽象化は、記憶と処理の能力、コントローラ等が持つ制約のもとで行われなくてはならない。
(3) 抽象化は、エージェントの具体化の仕方と、環境との相互作用の経験とに依存する。その評価はエージェントのふるまいに基づいておこなわれる。
(4) 抽象化の結果は、環境に関するエージェントの、いわば、主観的表現に相当する。
(5) 実世界では、エージェント間、およびエージェントと環境との相互作用は、非同期的かつ並列的であり、その複雑さは一意には定まらない。また、一見無用とみえるパラメータが生じて、それがエージェントの大局的なふるまいに影響することがあるから、全域的時計きざみ、目視される他のエージェントの情報、エージェント間の相互作用のモードは、またはスリップのような物理現象をシミュレーションに取り入れる場合、これらに対して、抽象化のどのようなトップダウンレベルを用意するかについては、定見は存在しない。
(6)物理的な相互作用は複雑で確定的にはとらえ難い。このことは、学習用データに対してしかるべき分布の統計的ゆらぎを与えることを要求する。
上記の諸問題点は、全て未挑戦のものであるから、これらの問題の解決に系統的、学術的に近づいていくためには、実世界における知的なふるまいの、種々局面を提示する標準問題を用意しなくてはならない。ロボカッププロジェクトのいま一つの学術的意義と目的はここにあるのであって、ロボカップ‘97の内容は、この趣旨で用意されることになる。